IWATO

2020.07.22

コロナ感染防止対策の検証レポート

2014年3月1日より東京湾クルーズ 安宅丸で行われてきたWAGAKUによるロングラン公演は、新型コロナウィルスの影響で安宅丸の運航自体、2月よりキャンセルが増え、3月は95%のキャンセル、4月〜7月9日は全面休業となりました。

7月10日より、ようやく曜日限定で再開を果たせましたが、コロナ感染防止対策を講じながらのパフォーマンスは様々な面において課題があり、6月から再開までの間、クリエイター、キャスト、提携する関係各社と何度も検証を重ね、また他社様からも情報提供をいただきました。

コロナの影響がもうしばらく続くと思われること、また様々な分野で影響を受けておりますが、演劇界も多大な影響を受けており、少しでも我々が積み重ねたノウハウが演劇界はじめ必要としている方々のお役に立てればと、関係者一同の総意のもと、検証レポートをまとめました。

(※以下の記載内容は、御座船安宅丸における弊社はじめとした関係者の見解によるものです)

 

【安宅丸におけるWAGAKUのパフォーマンス形態】

安宅丸 WAGAKU
安宅丸 WAGAKU
安宅丸

ミュージカル(演技、歌、踊り)を主軸としたパフォーマンス。通常時の最大客席数108席の部屋でパフォーマンスを行い、客席通路演出も使ったお客様を巻き込む、参加型のパフォーマンスです。

 

【調査 及び 検証した道具】

★マスク

★顔面サポートフードステレオブラケット

★透明シールド口カバー

★フェイスシールド

★手袋

★透明ビニール幕

★アクリル板

★ステリライザー(紫外線による滅菌器)

★ポータブルUVC LED滅菌器

 

【検証の観点】

❶飛沫感染対策のレベル感

❷キャストの負担

❸演出への影響

❹(大型設置物による)客席数の減少

❺設置の手間

 

 

★★マスク★★

■検証結果

❶飛沫感染対策のレベル感

→飛沫は大幅に防げる

❷キャストの負担

→キャストへの負担(呼吸、暑さ)が増える

→歌ったり、踊ったりしているとずれる

❸演出への影響

→構成等に与える影響は少ない

→キャストの顔の半分が隠れるので、表情が伝わらない

→既製品を使用するとキャラクターのデザイン性が失われる

❹(大型設置物による)客席数の減少

→影響なし

❺設置の手間

→影響なし

 

■改善策

●デザイン加工可および冷感機能付きマスク(衣装デザイナー対応)

調査の結果、デザイン加工ができる立体マスクを発見。プリント加工によりデザイン性の課題は解消。また人によって感じ方は多少違うが冷感機能がついているため幾分か呼吸や暑さの対策になる。

発注した業者に立体マスクの真ん中の繋ぎ目を縫い合わせてもらうこともできたが、それを行わず左右バラバラの状態で納品してもらうことで、WAGAKUの衣装デザイナーがフィッティングを行い、個々の顔の形状に合わせてサイズを調整。また紐を付けて結べるようにすることでズレ防止を解消した。

安宅丸 WAGAKU 山藤恵里
安宅丸 WAGAKU 三戸亜耶

 

●顔面サポートフードステレオブラケット(★)

マスクの中に入れて空間を作り、息苦しさを解消するもの。効果は最初の段階で感じられたが、問題点は歌ったり、踊ったりしていると、マスクからはずれてしまうこと。この問題はテープ等で固定することで解消された。

 

★★透明シールド口カバー★★

■検証結果

❶飛沫感染対策のレベル感

→ホールスタッフなどであれば一定の効果はあるかもしれないが、歌ったりとそれなりの音量で発声するキャストでは、飛沫を防ぎきれない。もしくは印象として安心を与えることはできないと判断した。

 

★★フェイスシールド★★

■検証結果

❶飛沫感染対策のレベル感

→単体では飛沫を防ぎきれないと判断

→マスクとの併用であれば大幅に防ぐことはできる

❷キャストの負担

→息苦しさはない

→照明などが当たると目眩しになる瞬間がある

→フェイスシールド内に汗の蒸気がたまり曇る

→使用しているうちに手で触った跡などが残り視界が悪くなる

→歌ったり、踊ったりしているとずれる

❸演出への影響

→照明が当たることで角度によってフェイスシールドが光り、キャストの顔がみえなくなるときがある(おおよそは問題なし)

→音がフェイスシールドの中でこもってしまい、キャストにとって返しの音が聴きずらくなる(キャストにとって音が聴こえすぎて声をセーブしてしまい、音響バランスが難しくなる)

→キャラクターのデザイン性が失われる

❹(大型設置物による)客席数の減少

→影響なし

❺設置の手間

→影響なし

 

■改善策

●既製品の加工(ヘアーメイクデザイナー「MUU」対応)

既製品にWAGAKUのヘアーメイクデザイナーが加工をして対応。おでことの接着面に当て物を入れて空間をつくることで、フェイスシールド内にたまる蒸気を上からも逃がせるようにして曇る課題を解消。ズレ防止の対策としては、紐を新たにつけてキャストの頭のサイズに合わせて結び、固定することで解消。また、耳にフェイスシールドがかからないような加工を施すことで、音響面の課題も解消する。

●曇り止めスプレー

フルフェイスのヘルメット用の曇り止めスプレーをかけることで、曇る課題を更に改善すると共に、手などで触った跡も軽減される。

安宅丸 WAGAKU
安宅丸 WAGAKU

 

★★手袋★★

(衣装デザイナー対応)

安宅丸 WAGAKU みさほ

接触感染を防ぐために着用する。またキャラクターのデザイン性を保つために既製品の手袋に手甲等の装飾を施した。

 

★★透明ビニール幕★★

■検証結果

❶飛沫感染対策のレベル感

→設置する数により変わる

→設置するならマスクとの併用が必要と判断。

❷キャストの負担

→影響なし

❸演出への影響

→(安宅丸の場合)客席最前列に幕を貼ると、照明があたってしまいステージがみにくくなる

→今回検証したものは幕の中では透明度が高かったが、ステージをみるには透明度が不十分であった

❹(大型設置物による)客席数の減少

→(安宅丸の場合)照明を避ける形で2列目に幕を貼ると、客席最前列が潰れる。

❺設置の手間

→多少手間がかかる

 

❸❹の理由から断念。

※シワは伸ばせば写真のものより綺麗になります

 

★★アクリル板★★

 

■調査結果

❶飛沫感染対策のレベル感

→設置する場所と数により変わる

→設置の場所と数によってはマスクとの併用が必要と判断

❷キャストの負担

→影響なし

❸演出への影響

→影響なしと推測される

❹(大型設置物による)客席数の減少

→影響なし

❺設置の手間

→設置面積によって異なり、安宅丸は間口が広いため設置が困難であると推測

※また船の揺れにより転倒の恐れがあと判断したため断念する

 

■調査内容(情報提供者:クラリティアーツスクール 様)

 

●両脇に木材で支柱を立てて、アクリル板を貼る方法

(取り付け人数:2人以上)

 

〈準備するもの〉

・アクリル板(厚さが足りないと湾曲する可能性あり。1cmくらいの厚さがあった方が良い。)

・木材(2本)

・アジャスター(木材を床と天井に固定するための道具)

・ルーター・トリマービット(木材に溝をつくるための機材)

 

〈工程〉

①ルーター・トリマービットを使用して木材に溝をつくる

②木材のうちの1本をアジャスターを使って、床と天井に固定する

③固定した木材の溝にアクリル板を入れ、反対側にもう1本の木材を設置して、同様にアジャスターで固定する

クラリティアーツスクール 公式HP

 

★★ステリライザー★★

(情報及び器具の提供者:トランステック株式会社)

紫外線によって滅菌する器具。医療器具や、美容器具などの滅菌にも使用されており、御座船安宅丸ではヘッドセットマイクの滅菌等に使用しています。

 

★★ポータブルUVC LED滅菌器★★

(情報及び器具の提供者:トランステック株式会社)

ステリライザー同様、紫外線による滅菌を行う。ステリライザーの器具に入らないフェイスシールド等の滅菌に使用。

 

※その他

マスクやフェイスシールドを装着することで、通常時よりキャストの声がマイクにのりにくい、こもって聴こえるという検証結果が出た。総合的な判断でマスクとフェイスシールドの使用を決めたが、使用するにあたってキャストが「言葉を固めに、ゆっくり話す」という工夫が必要であった。

 

【検証 参加者、協力者】

■演出:森健太郎

■衣装デザイナー

■ヘアーメイクデザイナー:MUU

■キャスト:宮澤良輔、小川真善太郎、青井美文、みさほ、山藤恵里、長谷川ゆうり、三戸亜耶、塩沢優

■音響照明オペレーター:吉本麻美

■音響照明:トランステック株式会社

■ご協力:クラリティアーツスクール